いのちの営み

枠のない壁、枠のない子育て

sakura

静けさの中に灯る未来への灯り

リビングの壁に、子どもが描いた絵がたくさん貼られています。

その風景自体はどこにでもある、よく見る子育てのワンシーン。
でも、そのお家では、壁に直接、色とりどりのペンで自由に描かれた
落書きまでもが、消されることなくそのまま残されていました。

まるで、枠にはめない子育ての象徴のように。
壁の落書きが、生きている「今この瞬間」を
大切にしている空気をまとうのを感じたのです。

最近、出会ったベテランママたちの中に、
夜中にそっと「自分のこれから」に向き合っている方々がいました。

赤ちゃんのお世話をしながら、ふと静けさに包まれた深夜の時間。
誰も起きていない家の中で、小さな灯りの下に本を開き、
これからの自分のために静かに学んでいる。

自分の心と向き合い、資格取得のために時間を見つけて
勉強しているというママもいました。
みんな口を揃えて言っていた。
「一人目のときは、そんなこと考える余裕なかったなぁ」って。

それを聞いて、心から「すごいな」と思いました。

子育ては待ったなしの連続で、自分の時間なんてあってないようなもの。
それでも、ほんのひととき、わずかな隙間時間に「わたし」としての未来に目を向けている彼女たちの姿に、静かだけど強い光を感じました。

私もかつて、仕事を辞めて進学の道を選んだことがありました。
進学を決めた当時、私は不安と期待のあいだで揺れていました。
思い切って仕事を辞め、自分の可能性を信じて進むという決断は、
若かった私にとって、思った以上に勇気のいることだったのです。

そんなある日、職場の先輩が、ひとつのプレゼントを手渡してくれました。
それは、手作りのレッスンバッグ。
手のひらで触れると、やわらかな布の感触とともに、
ていねいに縫い込まれたアップリケや刺繍が目に入ります。
やさしい色合いのそのバッグには、先輩の思いやりがぎゅっと詰まっていて――
「これを使ってね」
そう言って手渡された瞬間、私はじんわりと胸があたたかくなるのを感じました。

バッグは今でも、私の心の中に残る宝物です。
あのとき背中を押してくれた思いは、何年経っても色あせることがありません。

応援してるよ」と言ってもらえることが、どれほど励みになるか、あの時の私がよく知っています。



あのとき私がもらった応援のまなざしを、今の私は、
出会うママたちに、そっと返していきたいと思うのです。

ママたちは、壁に描かれた落書きのように、自由に、のびやかに、
自分たちの子育てを紡いでいます。

色とりどりのペンで彩られたリビングの壁。
そこに枠はありません。
その自由さが、子どもたちの個性をまるごと受けとめているようで、
私は思わず立ち止まり、心がふっとほどけるのを感じました。

壁に自由に描かれた子供の落書き

そう、枠のない壁のように。
枠のない子育てが、たしかにここにあるのです。

静かな夜明けの中。
赤ちゃんの寝息が響くその横で、未来の自分に向かって
小さな一歩を踏み出すママたち。
その姿はまるで、夜のとばりにそっと灯る、小さな灯りのようでした。

ABOUT ME
さくら
さくら
助産師/セラピスト
助産師として、いのちの声と心のさざめきに耳をすませてきました。
流産・死産を経験された方へのグリーフケア、 赤ちゃんを迎える心の準備、
幼い日の自分をそっと抱きしめる癒しの旅

「ここにいるよ」と、やさしい記憶と未来を結ぶ場所で、 光の糸を手繰り寄せています。
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